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最高裁判所第三小法廷 昭和52年(オ)583号 判決 1977年12月23日

主文

原判決を破棄する。

本件を札幌高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人栗山裕吉、同組村真平の上告理由第二点について

原判決は、(1) 昭和三七年八月中旬ころ、被上告人平野は、訴外中本興業株式会社(以下「訴外会社」という。)の注文によつて、訴外会社が同年一〇月一日に開校する予定の釧路愛国自動車学校の用地の整地、練習用コース周囲の明渠の設置及び排水の工事(以下「本件工事」という。)をその完成期日を同年九月中旬と定めて請負い、上告人は、訴外会社の被上告人に対する右請負工事の報酬債務を重畳的に引き受けるとともに、その支払に代えて上告人所有の釧路市古川町四七番地及び四八番地の土地のうち一〇〇〇坪を被上告人平野に譲渡する旨約定した、(2) 上告人は、同年九月二二日、右約定に基づき、被上告人平野に対し、右一〇〇〇坪の土地の約二分の一に相当する第一審判決添付目録記載の土地約五〇〇坪(以下「本件土地」という。)を譲渡し、その所有権移転登記を経由した、(3) 被上告人平野は、昭和三七年八月下旬本件工事に着手したが、準備作業として公道から自動車学校用地に入る道路部分に土を入れて整備したほか、排水工事の一部に手をつけ、約三〇〇〇坪に及ぶ練習用コース敷地のほぼ六等分された一区画に若干の土砂を搬入しただけで、本件工事全工程の約一〇分の二程度の工事をした段階にすぎなかつたにもかかわらず、同年九月中旬ころ工事を中止してしまつた、(4) 訴外会社代表者は、再三にわたつて工事の続行を催告したが、被上告人平野がこれに応ぜず全工事完成の見込がたたなくなつたので、同年一一月下旬ころ被上告人平野に対して本件工事残部の打切りを申し入れ、既設工部分の引渡を受けるとともに、本件土地の返還を要求したところ、被上告人平野は、既設工部分の出来高代金として一〇〇万円を支払わなければ本件土地の返還要求には応じられないとの態度を示し、訴外会社代表者も自動車学校の開校が遅れたことによる損害の発生を主張し、その損害賠償債権と出来高工事代金債権とを相殺するとして、被上告人平野の要求する一〇〇万円の支払を拒絶した、との事実を認定した、(5) そして、以上の事実からすれば、訴外会社は、昭和三七年一一月下旬ころ、被上告人平野に対し、債務不履行を理由に本件工事のうち未完成部分についての工事請負契約を解除するとともに、併せて、被上告人平野の出来高工事代金債権と同被上告人の債務不履行による訴外会社の損害賠償債権とを対等額で相殺する旨の意思表示をしたことが認められるが、右解除は契約の一部解除であつて、その効果は本件工事請負契約に基づいて被上告人平野がした既設工部分についてまで及ぶものではなく、既設工部分についての契約関係は右解除によりなんらの影響を受けるものではないから、上告人が本件土地所有権を被上告人平野に移転したことは、既設工部分の工事出来高代金債務に対する前払としてなお有効であり、被上告人平野に対する本件土地所有権移転の効果が解除により消滅するいわれはないとしているのである。

しかしながら、原審の確定したところによれば、被上告人平野は本件工事全工程の約一〇分の二程度の工事をしたにすぎず、また、本件工事はその性質上不可分であるとはいえないが、被上告人平野のした右既設工部分によつては訴外会社が契約の目的を達することはできないことが明らかであるところ、訴外会社代表者は、本件工事残部の打切りを申し入れるとともに本件土地全部の返還を要求しているのであるから、他に特別の事情がない以上、右本件工事残部の打切りの申入をすることにより、訴外会社は契約全部を解除する旨の意思表示をしたものと解するのを相当とすべく、単に、右残工事部分のみについての契約の解除の意思表示をしたものと断定することは妥当を欠くものといわなければならない。それにもかかわらず、原判決が、右特別の事情のあることを認定することなく、残工事部分のみについての契約の解除を認めたのは、経験則に照らして是認することができないものというべく、論旨は理由がある。それゆえ、この点において原判決を破棄し、本件を原審に差し戻すのが相当である。

よつて、その余の上告理由に対する判断を省略し、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 服部高顕 裁判官 天野武一 裁判官 江里口清雄 裁判官 高辻正己 裁判官 環 昌一)

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